年末になって、いわゆるベスト10みたいなものをやろうかな、とは思うのだが、昔からどうもこの順位をつけるということが苦手である。ジャンルも面白さの質も全然違うモノを比べようがないではないか。人生の機微についての精妙な表現と、人体破壊の芸術的肉片の飛散を、いったいどういう基準で並べるべきなのか? いくら考えてもさっぱりわからないので、あきらめることにした。順位をつけることの困難ばかりか、10本にしぼることすらムズカシいので、今年印象が強かった作品はとりあえず全部並べてみた。
今年の特長は、やはり「戦争/政治」テーマ作品の多さにつきると思う。時代の空気を映画は吸って成り立っているということを改めて感じる。このくくりだけで絞っても13本にもなってしまった。良くできた作品が多いのだ。
『ホテル・ルワンダ』 … 個人的に、(ごくわずかながら)上映運動に関わった作品だけに思い入れが強い、ということもある。ホテルマンの徹底した仕事への矜持で命を救った、という点がユニークだった。
『ミュンヘン』 … 過去を暴いて、復讐の連鎖に警鐘を鳴らすという方法論。徹底して暗殺系サスペンス・アクションのエンターテイメント性を貫いたところに凄みを感じた。そしてシンプルにしてこれ以上ない強烈なラスト。
『ジャーヘッド』 … 明確な「敵」すら喪失してしまった「新しい戦争」のむなしさを、「自慰」という行為に集約してみせて、そのことで青春モノにも昇華させた意欲作。
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 … 過去の暴力が、現在に復讐してくる。そのためにまた、暴力を発動せねばならない。暴力はかくして連鎖していく。家族の守る「正義」を行ったはずにもかかわらず、ラストの沈黙の食卓で立ち上ってくる絶望感。
『マンダレイ』 … 非常に観念的にアメリカを分析。「アメリカ3部作」の2部目は「グローバリゼーション」についての考察。例のスタイルは『ドッグヴィル』の最初の衝撃はなくとも、やはり強烈だ。
『戦場のアリア』 … 政治性ではなく、人々のごくシンプルな心情から戦争の愚かさを描く。美しい音楽は、世界をひとつにするし、酒を酌み交わせば、相手を殺すことなどできないという、コミュニケーションの映画。実話だけに真に迫る。
『プラハ!』 … 「プラハの春」を若者の開放的な青春ミュージカルとして描き、やがてそれがワルシャワ条約機構軍によって侵攻されて壊される様を描く。ほとんど完璧な60年代の再現をもって、21世紀における状況の反復を撃つ。剛山の今年度ベストワンをあげるならこれか『クラッシュ』。
『隠された記憶』 … ストーカー・サスペンスの体裁で、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』と同様のテーマを描く。ラストの長回しは、ほとんど心理テストのようだ。あれをどう見るか、で心が暴かれる。
『グッドナイト&グッドラック』 … これも『ミュンヘン』『プラハ!』同様、今度は50年代アメリカの「赤狩り」と闘ったニュース・キャスターを再現することで、現在アメリカのマスコミの翼賛体制を撃つ。いぶし銀の魅力に酔う。
『ユナイテッド93』 … 作品自体に主義主張をほとんど盛り込まず、徹底した再現で問題を提起した。受け取り方はそれぞれとなろうが、とにかくこのサスペンスの凄みは群を抜く。会話劇の醍醐味。
『太陽』 … これは異色。終戦間近の昭和天皇の数日間を一種の幻想の中に描いた作品。ロシアの監督ソクーロフの視線に敬愛がこもっていることに驚く。「天皇の戦争責任」というキーワード一発で思考停止することの愚に異を唱える作品。
『トゥモロー・ワールド』 … 「子供が生まれなくなった世界」という仮定ひとつで、「戦争」についてまた新たなる視点を提示してみせる驚愕。表面的なヒューマニズムでは語り得ない「命」の意味についての問題提起。
『父親たちの星条旗』 … 3つの時間から、それぞれに複数人の視点で、たった一枚の写真の裏にある多くの物語を描く。『クラッシュ』の監督ポール・ハギスが脚本。その構成の技が冴え渡る。
『硫黄島からの手紙』 … 前作と違いごく普通の作品ではあるが、過剰な感傷性と破壊の爽快感を盛り込まないことで、思索を深めた。また日本人としては、全くまっとうな描写で日本が世界に紹介されることの素晴らしさを喜ばずにはいられない。
長くなりすぎるので、続きはまた来月のSEEKismで。
『ホテル・ルワンダ』 (C)2004 Kigali Releasing Limited. All Rights Reserved.
『ミュンヘン』 TM & (C) 2005 DREAMWORKS LLC./Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
『ジャーヘッド』 (C)Universal Studios All rights reserved
『戦場のアリア』 配給:角川ヘラルド・ピクチャーズ
『ユナイテッド93』 配給:UIP
『トゥモロー・ワールド』 Photography by Jaap Buitendijk
『父親たちの星条旗』 (C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C.
『硫黄島からの手紙』 (C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C.
|