(C)2006 松本大洋/小学館、アニプレックス.
鉄コン筋クリート

監督■マイケル・アリアス
原作■松本大洋(「鉄コン筋クリート」小学館)
声の出演■二宮和也(『硫黄島からの手紙』)
         蒼井優(『フラガール』)
制作■STUDIO4℃(『アニマトリックス』)
配給■アスミック・エース
    公式HP こちら

 静謐な暗闇に灯る、マッチの小さな火から、映画は幕を開ける。穏やかで暖かだが、この「火」はその内に激しい暴力を含んでもいる。火を見つめる二人の少年。やがて火は、少年の指を焼く。「熱ッ!」
  映画全体を一場面に凝縮してみせたあと、間髪入れず、観客はカラスの背中に乗せられて「宝町」を飛翔する。この浮遊感! そしてスピードが生み出す爽快感! 濃密な「世界」の細部に頭がクラクラする。これは「新しい体験」だ!
 監督はハリウッドのVFX界で活躍していたマイケル・アリアス、デビュー作。恐るべき新人である。制作は『アニマトリックス』『MEMORIES』のSTUDIO4℃。声優陣も豪華。『硫黄島からの手紙』でその熱演が絶賛されている二宮和也に、もはや説明不要の奇跡の天才女優、蒼井優。伊勢谷友介に宮藤官九郎、本木雅弘に加え、異色を放つのが『たそがれ清兵衛』の敵役で日本中に衝撃を与えた田中泯。好演。
 猥雑な町を潰して、テーマパークを造ろうとする冷酷な男に、やったらケンカの強い少年2人組が立ち向かうというストーリー。昭和とインドとバリ島と近未来と香港がごっちゃになったような混沌として豊穣な「世界」を、少年らといっしょに重力の鉄鎖から解き放たれて縦横無尽に駆けまわる興奮は、ちょっと言葉には出来ないものがある。テクノビートにのって加速するこの疾走感は、ジブリ作品じゃ絶対味わえないぜ! 
 

 1988年『AKIRA』。あの衝撃から、18年。
 ついに「ネクストレベル」の映像世界を見せてくれるアニメーションが登場した! 大友作品に始まった細部の精緻はここに極まり、さらに立体化されて、その存在感は圧倒的に増加した。ありきたりな言い方をすれば「宝町は今作のもう一つの主人公」である。しかしこの言葉がこの作品ほど説得力を持つことはないだろう。時折物語を追うのを忘れて背景に見入ってしまうほどだ。
 ストーリーラインはシンプルだが、主要人物である2人の少年のうちの1人シロが、中盤よりシャーマン/予言者的になっていき(この時の蒼井優の芝居には驚嘆する!)、物語自体が精神世界へ傾いていくので、多少混乱しないでもない。この辺をあげ足取りする向きもあろうが、実際のところ観客はヴィジュアルの力強さで首根っこを掴まれて強引にねじ伏せられてしまう。
 やさしさもあれば、暴力もあって、昔なつかしいものもあれば、見たことのないものもある。路地で遊ぶ子供たちがいれば、路地裏でうごめくヤクザもいて、家のないおじいちゃんもいれば、半裸で踊るストリッパーもいる。そんな全部を包括した豊穣な「世界」こそが今作の主題であり、真の主役である。シロとクロは、この「世界」の一種の精霊なのだ。
 まあムズカシいことは放っておいて、とにかくこの楽しさ! カッコよさ! に身をまかせればいい。わんぱくな精霊の背中につかまって、さあ、町へ飛びだそう。ソコカラ、ナニガ、ミエル?

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『パプリカ』 『敬愛なるベートーヴェン』

 

『無花果の顔』




vol.16 My favorite movies 2006


 年末になって、いわゆるベスト10みたいなものをやろうかな、とは思うのだが、昔からどうもこの順位をつけるということが苦手である。ジャンルも面白さの質も全然違うモノを比べようがないではないか。人生の機微についての精妙な表現と、人体破壊の芸術的肉片の飛散を、いったいどういう基準で並べるべきなのか? いくら考えてもさっぱりわからないので、あきらめることにした。順位をつけることの困難ばかりか、10本にしぼることすらムズカシいので、今年印象が強かった作品はとりあえず全部並べてみた。

 今年の特長は、やはり「戦争/政治」テーマ作品の多さにつきると思う。時代の空気を映画は吸って成り立っているということを改めて感じる。このくくりだけで絞っても13本にもなってしまった。良くできた作品が多いのだ。

『ホテル・ルワンダ』 … 個人的に、(ごくわずかながら)上映運動に関わった作品だけに思い入れが強い、ということもある。ホテルマンの徹底した仕事への矜持で命を救った、という点がユニークだった。

『ミュンヘン』 … 過去を暴いて、復讐の連鎖に警鐘を鳴らすという方法論。徹底して暗殺系サスペンス・アクションのエンターテイメント性を貫いたところに凄みを感じた。そしてシンプルにしてこれ以上ない強烈なラスト。

『ジャーヘッド』 … 明確な「敵」すら喪失してしまった「新しい戦争」のむなしさを、「自慰」という行為に集約してみせて、そのことで青春モノにも昇華させた意欲作。

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 … 過去の暴力が、現在に復讐してくる。そのためにまた、暴力を発動せねばならない。暴力はかくして連鎖していく。家族の守る「正義」を行ったはずにもかかわらず、ラストの沈黙の食卓で立ち上ってくる絶望感。

『マンダレイ』 … 非常に観念的にアメリカを分析。「アメリカ3部作」の2部目は「グローバリゼーション」についての考察。例のスタイルは『ドッグヴィル』の最初の衝撃はなくとも、やはり強烈だ。

『戦場のアリア』 … 政治性ではなく、人々のごくシンプルな心情から戦争の愚かさを描く。美しい音楽は、世界をひとつにするし、酒を酌み交わせば、相手を殺すことなどできないという、コミュニケーションの映画。実話だけに真に迫る。

『プラハ!』 … 「プラハの春」を若者の開放的な青春ミュージカルとして描き、やがてそれがワルシャワ条約機構軍によって侵攻されて壊される様を描く。ほとんど完璧な60年代の再現をもって、21世紀における状況の反復を撃つ。剛山の今年度ベストワンをあげるならこれか『クラッシュ』。

『隠された記憶』 … ストーカー・サスペンスの体裁で、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』と同様のテーマを描く。ラストの長回しは、ほとんど心理テストのようだ。あれをどう見るか、で心が暴かれる。

『グッドナイト&グッドラック』 … これも『ミュンヘン』『プラハ!』同様、今度は50年代アメリカの「赤狩り」と闘ったニュース・キャスターを再現することで、現在アメリカのマスコミの翼賛体制を撃つ。いぶし銀の魅力に酔う。

『ユナイテッド93』 … 作品自体に主義主張をほとんど盛り込まず、徹底した再現で問題を提起した。受け取り方はそれぞれとなろうが、とにかくこのサスペンスの凄みは群を抜く。会話劇の醍醐味。

『太陽』 … これは異色。終戦間近の昭和天皇の数日間を一種の幻想の中に描いた作品。ロシアの監督ソクーロフの視線に敬愛がこもっていることに驚く。「天皇の戦争責任」というキーワード一発で思考停止することの愚に異を唱える作品。

『トゥモロー・ワールド』 … 「子供が生まれなくなった世界」という仮定ひとつで、「戦争」についてまた新たなる視点を提示してみせる驚愕。表面的なヒューマニズムでは語り得ない「命」の意味についての問題提起。

『父親たちの星条旗』 … 3つの時間から、それぞれに複数人の視点で、たった一枚の写真の裏にある多くの物語を描く。『クラッシュ』の監督ポール・ハギスが脚本。その構成の技が冴え渡る。


『硫黄島からの手紙』 … 前作と違いごく普通の作品ではあるが、過剰な感傷性と破壊の爽快感を盛り込まないことで、思索を深めた。また日本人としては、全くまっとうな描写で日本が世界に紹介されることの素晴らしさを喜ばずにはいられない。

  長くなりすぎるので、続きはまた来月のSEEKismで。

『ホテル・ルワンダ』 (C)2004 Kigali Releasing Limited. All Rights Reserved.
『ミュンヘン』 TM & (C) 2005 DREAMWORKS LLC./Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
『ジャーヘッド』 (C)Universal Studios All rights reserved
『戦場のアリア』 配給:角川ヘラルド・ピクチャーズ
『ユナイテッド93』 配給:UIP
『トゥモロー・ワールド』 Photography by Jaap Buitendijk
『父親たちの星条旗』 (C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C.
『硫黄島からの手紙』 (C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L.L.C.

 



  投票受付中! 第13回シネマカウンシル「敗者復活戦」ですが…結構大差ついています。これはもう『アラビアのロレンス』で決まりですかね。組織票でも入らない限りこのペースでは逆転の可能性は薄いかも
。そうか、『ロレンス』か。『荒野の七人』がもうあと2週間くらいで始まるだけでも幸福なのに、『ロレンス』まで上映出来るなんて(感涙)。これはまさに至福の約4時間ですよ。

  …ってまだ決まったわけではありませんね。先走ってしまってすみません。さあ、投票を!

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 シネマカウンシルって何? という方は >>こちら
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『ゴッドファーザー』 DVD発売中 \4,179  発売元■パラマウント ホーム エンタテインメント. 
『スリーピー・ホロウ』 DVD発売中 ¥3,800(税抜)   発売元■日本ヘラルド映画
『アラビアのロレンス』 DVD発売中 ¥2,980   発売・販売■ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
『チアーズ!』 DVD発売中 ¥6,300(税込) 品番:TDV2638D 発売元・販売元:東宝
『タイタニック』 アルティメット・エディション DVD発売中 3枚組 ¥4,179(税込)
販売元■20世紀フォックス ホームエンターテイメント
(C)2006 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.All Rights Reserved.


 2006年のクリスマスは、忘れられない日になった。

 大学の頃、音楽をやっていた。いちおう、サルサやサンバやボサノバなんかを演るラテン・ミュージックバンドだったのだが、ペットやサックス、トロンボーンがいて、パーカッションも揃っているとなれば、やはりソウル/ファンクも演らないわけにはいかない。というかガマンできない。
 
  元々インストゥルメンタルバンド(歌無し)だったので、キーボードとして参加しようかなと思っていたのだけれど、すでに在籍の人とのあまりの実力の差に絶望、ヴォーカルとして加わることになった。
  コピーをやっていたので、いきなりポルトガル語とかスペイン語とか、歌詞カードもないので(あっても読めないし)いわゆる耳コピで歌うこととなり、どうしたものかと混乱に陥ったが、どうせ合っているかどうか誰にもわかりやしまい、という結論に達し、それからは「らしく」あれば良しッ、という姿勢で貫くことにした。タモリの四カ国語マージャン方式である。あまり程度の高すぎない大学のバンドであることが幸いした(だが日比谷野音で外国人のいるところで歌うというまさかの絶望が訪れることになる。それはまた別の機会に)。
 
  そんなイカサマなヴォーカルを務め、瞬く間に大学時代は過ぎ去り、いよいよ最後のライブとなった。12月も下旬、クリスマスの何日か前。バンドの慣習で、卒業生は短い「コーナー」を持てることになっていた。そこでは曲選会議を通すことなく、自分の好きな曲を出来るのである。
  各自、やはり自分が音楽を始めたきっかけになったような、もっとも好きなアーティストを選ぶ。この人のようになりたい、といつかに強烈に思った、あの曲を選ぶ。

 ライブは順調に進んでいき、いよいよ僕の「コーナー」だ。ステージわきから入って、マイクの前に立つ。その曲は、ヴォーカルの第一声を合図に始まる。いよいよだ、深く息を吸い込む。さあ、喰らえ。

「I feel good!!」

 僕が選んだ最初の曲は、ジェームス・ブラウンのヒットナンバーのうちの1曲「I got you( I feel good)」だった。

 18か19の頃、JBのライヴアルバム「LOVE POWER PEACE」を聞いたとき、そのあまりの熱狂に、アグレッシヴに、超絶技巧に、そしてなにより痺れるような叫びに、僕は完全にヒートアップしてしまい、気が狂ったようにベッドを殴り続けた。ヘッドフォンを強く耳に押し当て、脳がヴァイブレートするほどの爆音で、楽譜なんてものには絶対に書き記せないルール無用の音楽爆弾を浴び続けた。ほとばしるリズムの奔流。それが「ファンク」との出会いだった。

 後に「ファンク」とはジェームス・ブラウンによって生み出されたジャンルだと知る。JBがいなかったら、プリンスもマイケル・ジャクソンも、レッド・ホット・チリ・ペッパーズも、エミネムも、50セントもいなかった。たぶん。

 なぜか日本では「モー娘。」などの影響で「ゲロッパ」という言葉がひとり歩きし、ジェームス・ブラウンは「おもしろ外国人」みたいなイメージだが、もう腹に据えかねる。どれだけ偉大な、生ける伝説か。どれだけ黒人の地位向上のために戦ってきた闘士か。わかって笑うなら、よろしい。ファンは愛と敬意を持ってJBを笑うのだ。

 「コーナー」では立て続けにJBの曲を演った。「Out of sight」「Try me」「Papa's got a brand new bag」。知ってか知らずか、シャウトするたびに会場は沸いた。こんなに盛り上がったのは今までのライブで初めてだった。
 
  あれから時は流れ2006年。奇しくも同じ季節、JBは逝った。簡単な言葉でこの気持ちは語れない。

 その姿は映画でも観ることができる。『ブルース・ブラザーズ』『ロッキー4』『ブルース・ブラザーズ2000』『タキシード』。
『ブルース・ブラザーズ』では主人公のチンピラ2人をその歌声で神の道に目覚めさせる神父を演じ、『ロッキー4』では試合前のショーで派手に歌い、『2000』ではエンドロールで、ライブでお決まりの「マント・ショー」を再現、『タキシード』ではジャッキー・チェンにぶん殴られて回転しながら吹っ飛ぶJBを観ることができる。

 今年最終号です。といっても映画館は年末年始休みはありませんし、SEEKもいつも通りの発行スケジュールなので正月感覚はゼロなんですが。どうぞ、来年もよろしくおねがいします。良いお年を。

表紙の顔

ジェームス・ブラウン。「ファンク」の創始者。現代ポップミュージックに計り知れない影響を与えた偉大なるミュージシャン。「Mr.Dynamite」「Soul Brother No.1」「The hardest woking man in show buisiness」など、彼を称える呼称は数々。日本で言えば「美空ひばり」が亡くなったようなものです。いやそれ以上か。


ご意見、感想お待ちしております … seek@cinemacity.co.jp 

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