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いつか眠りにつく前に

監督■ラホス・コルタイ(『マレーナ』撮影)
原作■スーザン・マイノット(同題 河出書房新社刊)
出演■クレア・デインズ(『ロミオ&ジュリエット』)
■■■トニ・コレット(『イン・ハー・シューズ』)
■■■ヴァネッサ・レッドグレーヴ(『ヴィーナス』)
■■■メリル・ストリープ / グレン・クローズ
配給■ショウゲート
公式HP



 原題「Evening」は人生の黄昏のこと。邦題の「眠り」は醒めない眠りのこと。
 そう遠くないうちに死を迎える老いた母親のベッドに、娘が二人。薬のせいでもうろうとした意識の中、母はまだ娘たちが耳にしたことのなかった男の名前を口にする。「大丈夫?」いぶかしがる二人。そのとき母親の心の中では、その生涯でもっとも愛した男性との美しい思い出が再演されていた。
 命が消える直前、走馬燈のように思い出がよみがえるというけれど、本作ではおだやかな春の日にたゆとう波のように、ゆっくり大切な日々だけが描かれる。
 海辺の豪奢な別荘に親友の結婚式に訪れた主人公アンは、バーで歌うジャズシンガー。親友の弟は作家志望で、主人公の恋人でもある。だがその別荘で、親友とその弟にとって幼なじみである使用人の息子の青年と出会い、一目で惹かれてしまうのだった…。
 この「輝ける日々」の場面が美しい。いにしえに死んだ街の、時がすでに余計なものを洗い流してしまってただすぐれた意匠だけが残っているのに似て、「思い出」はかくも美しいのか。現実より数センチ浮き上がっているような幻想的なヴィジュアルが、郷愁とともにまた、喪失も表す。
 ヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリープ、グレン・クローズという超ベテランの芸達者たちが染み入るような深みをキャラクターに与え、『ロミオ&ジュリエット』のクレア・デインズが個性的で芯の強いヒロインをみずみずしく演じる。監督は『海の上のピアニスト』の撮影を手がけたラホス・コルタイ。
 
 



 本作はアメリカでちょっとした論争を呼び起こしたらしい。
 その論争とは、「男」VS「女」。今作を男性の評論家はあまり良く評価せず、それに対して女性たちが猛然と抗議したというのだ。「この作品をバカバカしいと思うなんて、ろくな男じゃない!」。
 なるほど、筆者は男性だが、なんとなく理由はわかる。
 ひとつは、人生における「恋」の優先順位の違いだ。この映画のテーマ自体についての対立。
 もうひとつは、作品の語られ方。感覚的に話が進んでいくため、論理性には乏しいところがある。たとえば、ヒロインの親友とその弟にとってあこがれの存在だったハリスというキャラだが、なぜ二人がそんなにもあこがれたかがはっきり描かれない。だからその後の関係性を裏付ける強い理由がわかりづらい。
 が、これは男性側の視点であって、そんなものいちいち言わずともあのイケメン観ればわかるだろう、という意見もあるに違いない。寺島進が出ていれば「あいつ、キレるとヤバいんだ」などという説明セリフが要らないのと同じだ(同じか?)。
 誰にでもわかるもの、はたいして面白くない。それは妥協の産物だからだ。だれかの批判は、裏返しの絶賛である。優れた作品であれば賛否あって然るべき。論争が起こるほどの振幅を持ったこの映画、あなたの胸にはどう届くだろうか?

 
 

 
*変更の可能性があります      
    〜2/29(金)
 

ウォーターホース

銀色のシーズン

歓喜の歌

KIDS

君のためなら
千回でも
 
 

アニー・
リーボヴィッツ


アース

マゴリアムおじさん
の不思議な〜
(字幕のみ)



 
    〜3/7(金)
 

奈緒子

ラスト、コーション
R-18

アメリカン
ギャングスター
R-15

マゴリアムおじさん
の不思議な〜
(吹替)

 
    3/1(土)〜
 

ワンピース
冬に咲く、奇跡の桜


ライラの冒険
黄金の羅針盤
(字幕/吹替)


超劇場版
ケロロ軍曹3

ガチ☆ボーイ

明日への遺言
 
 

ペネロピ


ジャンパー
3/1、3/2先行上映




 
    3/8(土)〜
 

ジャンパー
7日(金)スタート


ドラえもん


プライスレス
素敵な恋の
見つけ方

クロサギ

ダージリン急行
 
 

バンテージ
ポイント


スルース
PG-12




 
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vol.32 映画のシナリオ 前編


 つい最近、角川SSC新書から「時計仕掛けのハリウッド映画」という本が出た。著者は芦刈いづみ、飯富崇生。760円+税。
 時計仕掛けの、というタイトルはスタンリー・キューブリック監督『時計仕掛けのオレンジ』のパロディだが、しかしこれはイギリス映画である。まあそんなことはどうでもいい。

 この本はアメリカでシナリオを学んだという著者による、ハリウッドのシナリオがどのように書かれているかという内容のもの。帯にはこうある。
「なぜブラピは、95分に必ず突破口をみつけるのか?」
 これを見て、ピンときた方はコアなSEEK読者様だ。いつもありがとうございます。僕は以前、これとそっくり同じことが書かれた本を紹介させてもらったことがある(vol.31の編集後記を参照)。

  新書なので、シナリオについてそれほど詳しくは書かれているわけではなく、映画マニアには物足りないかもしれない。逆に1時間や2時間で読めてしまうものなので、さらっと豆知識的に読むにはちょうどよい。アメリカの映画業界の一部をかいま見ることができる。

  (余談だが、この本に『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』の内容予測、という箇所があって、新書ってすごいなーと思った。6/21に映画はスタートするのである。いやその何週か前にはあらすじもだいたいはわかってしまうというもの。あんまり買わないので気づかなかったが、そうか、これは本の形態は取っていても、雑誌の増刊号みたいなものなんだな。目の当たりにして実感)。

  この本は帯にあるようにブラッド・ピットの主演映画3本の時間配分の分析から始まる。
  そこで取り上げられているのは『セブン』『メキシカン』『Mr.&Mrs.スミス』の3本なのだが、このラインナップはどうだ? 分析するに足る映画と言えるかどうか。
  いや、いわゆる映画本ではなく新書なので、ヒットした順に取り上げたというのはわかるが、『セブン』はまだしも、『メキシカン』『Mr.&Mrs.スミス』のような成功作とは言い難いもの(お好きな方すみません)でこれが「エンタテイメントの法則」と言われても微妙だ。トム・クルーズ3本じゃ本が売れないか? ディカプリオでもダメなのか。
  微妙だが、どんな作品でもこの法則は貫かれている、という意味では成功作をあげるよりも意義深いかもしれない。


  考えてみれば、しかし、これを知って「おお、そうだったのか!」と驚く方は少ないかもしれない。だって日本には『男がつらいよ』とか『水戸黄門』みたいにむやみに長寿なシリーズがあって、これらこそベテラン寿司屋の大将の握る寿司の米粒の数がほとんどぶれないのと同じで、物語の「型」もほぼ全部同じだからだ。

  そもそも「落語」とか「歌舞伎」なんて、新作もあることはあるが、同じシナリオを何度も何度も演っているわけだ。いや日本に限らずシェイクスピアなんか星の数ほど繰り返されている。それら成功したストーリーが「型」の原型になっているのは当然で、アメリカのように「映画」が国の産業になっているところにおいて、アーティストの「発想」や「勘」だけに頼っているわけにはいかない。巨大な額のお金が動きすぎるのだ。

  だから「物語」というのはパターンにすると何十しかない、なんて言われる。

  ただこれも解釈が難しくて、特に民話とか童話とかはストーリーパターン(=型)に落とし込みにくいものも多い。たとえば「うらしま太郎」なんて、すごく奇妙なストーリーで、あんまり類をみない。途中までは「恩返しもの」だけど、海から戻ってきてからがすごく奇妙だ。いきなり「女の復讐もの」みたいになる。竜宮城で、ふたりの間に何があったのか? なんて変な勘ぐりをしたくなってしまうではないか。わかりやすい「鶴の恩返し」とは大違いだ。

  つまりストーリーパターンとは、「わかりやすい」という意味においてのパターンということになる。誰もが聞いて納得がいくものは何十パターンしかない、ということだ。

  ではさらにもう一歩進めて「わかりやすい」とはどういうことだろう?

 これは簡単。「テーマ」がはっきりしている、ということ。これがブレないものは理解しやすい。
 なぜなら「テーマ」がはっきりしているということは「答え」が用意されているということだからだ。
 この意味においてはストーリーは数式のようなものにしか「なりえない」。なぜって、「テーマ」を伝えるために(答えを導きだすために)ストーリーは従属せざるをえないからだ。だからパターン化できるのだ。

 さてさて、そういうわけで、映画における「ストーリー」というものが、必ずしも最重要ではないことがこれでおわかりいただけただろう。
  なんというか、人間にたとえるならストーリーとは「骨格」みたいなもので、男と女を決定したり、スピード型とパワー型を決定したりするのだから、なけりゃ成り立たないかもしれないが(もちろん人間とは別のものになることはそれでも可能だ)、人生にとって重要なのはそこにのっかる肉と皮膚のあり方であって、それによってモテたりモテなかったりするわけだ。

  つまりハリウッドのエンタテイメントの法則とは美女美男の「骨格」の法則であって、そこにどんな肉と皮膚をのっけるかが、作り手の勝負なのだ。そしてそこにこそ、映画の価値が宿る。骨格は備えていて当たり前のものに過ぎない。

  最先端の建築家の建物は、どうやって建っているのかすごく不思議に思えるものがあるけれど、それが建っているということはすなわち支えている「構造体」があるということで、構造体(=骨格)は必ずしも美男美女モデルである必要はないわけだ。建築基準はちゃんと守ってほしいけど(笑)。

  (蛇足だが、ここで言う建築基準というのが映画でいうと「2時間」という大体のランニングタイムであったり、「18禁」などの倫理規定だったりするわけだ。だから国や地域によって基準の数値は違うし、どんなにイカれた建物でも自分で自分の土地に作ったなら誰も文句はいわない。これも映画と同様)

 映画における「ストーリー」がどんなものかざっとつかんでもらえただろうか?
 これをふまえた上で、その法則を守らずに成功している作り手の作品について来週は書く予定。ご存じ、宮崎駿監督。初期の傑作『パンダコパンダ』にからめて、最近の作品と比較しながらシナリオについて書いてみようと思う。



 祝マリオン・コティアール主演女優賞受賞!

 アカデミー賞、今回はシブかったね。まるでカンヌ化。
 なにしろ、作品賞のノミネート作品が全部単館系(ないしはそれに準ずる小規模)のものときている。アカデミー賞を受賞したコーエン兄弟の『ノーカントリー』でも都内9館だけでの上映にすぎない。『ロード・オブ・ザ・リング』や『ディパーテッド』とは桁違いだ。

 ハリウッドがあげる賞なんだから、ウソでも大作娯楽映画に獲ってほしいものだ。『ノーカントリー』ではアカデミー受賞の看板にひかれてご覧になった多くの方が、「なんだこれ?」となるのは避けがたいわけで(そもそもそういう人をくったような作品で名を挙げた監督なのだから)、そうすると映画館の人間としては「アカデミー賞」の看板が信用ならないということになりはしないかと心配である。…個人的にはコーエン兄弟はかなり好きなのだけれど。

 話は冒頭にもどって、主演女優賞がマリオン・コティヤールというのだから、こっちも異色だ。
 フランス人女優が受賞したのは49年ぶりで、そのとき獲ったのはシモーヌ・シニョレ…ってもはや伝説の域。剛山の大好きな監督の一人、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーの傑作『悪魔のような女』で女教師やってた人。『輪舞』なんていうAからB、BからC、CからDといろいろな人間模様、恋模様がつながっていき、最後にAに戻るという面白い形式で作られた映画にも出ていたなあ。これも傑作。

 そんなシニョレと肩を並べることになるわけだが、しかし『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』をご覧になった方なら、文句は出まい。いや、すごかった。絵に描いたような神懸かり芝居。演技ではなく、芝居といいたい。何が違うかうまく説明できないが、あれこそが芝居というものだろう。アカデミー賞、よくやった。


 話変わって、近頃『パンダコパンダ』応援団にものすごい時間を取られてしまい、全然試写に行けてないので、毎月恒例の試写会速報が書けないのだが、今回作品賞にノミネートされていた『JUNO/ジュノ』(アメリカの公式HP)
はひと足お先に観させていただいたので紹介。

 これ、とってもおすすめ。全米でたった2館の上映からスタートして、2000館にまで増えたというミラクル大ヒットを飛ばしただけある作品。なにしろ脚本家が
元ストリッパーで、ブログが面白いからって理由で脚本を書かせてもらったという破天荒。デビュー作でいきなりオリジナル脚本賞受賞。なんという数奇な運命だろう。

 物語はロック好きサブカル系少女が、全然イケてない「愛すべきマヌケ」な少年とちょっとした好奇心でセックスしちゃって、妊娠してしまうというコメディ。これがふたりとも16歳だからやっかい。産んで育てるわけにもいかないので、子どもを求めている夫婦に養子に出すことにする。

  ヒロインは悪い子じゃないんだけど、とにかく口も態度も下品で乱暴。子どもがほしい、品のいい夫婦に会いにいっても「まだシーモンキーみたいだから、もうちょっと可愛くなったら絞り出して宅配するわ」なんてドン引き発言を繰り返す。自分も子どもだし、全然「命」の実感なんてない。そんな少女が、でもやがてどんどんお腹がふくらんでいって…。

 監督はデビュー作にしてピリッとスパイシーな秀作風刺コメディ『サンキュー・スモーキング』を撮ったジェイソン・ライトマン。これで1作目がビギナーズ・ラックでなかったことを証明。ついでに確実にオヤジさんより知的で才能があることも証明(笑)。オヤジさんはアイヴァン・ライトマン。『ゴースト・バスターズ』『ツインズ』の監督。

 女子高生の妊娠、なんてスキャンダラスな題材を日本でやったら、じめっとしたケータイ小説みたいな過剰センチメンタル映画になってしまうが、知性とユーモアと愛情があれば、こんなにも優れた映画になるんだという見本。ヒロインのジュノも、まわりの人間も、ものすごくカラっとしてあっけらかんだから、逆にリアル。笑えるし、芽生えてくる優しさには小さな涙もこぼれる。

 もちろんシネマシティでも上映予定。6月。もう予告流してます。少女とかつて少女だった女性と、母親とこれからの母親に、観て欲しい(おいおい、という人もいるかもだけど)。

今週の顔
谷村新司。現在上映中の映画とはいっさい関係ない。だが、アリスの名曲「チャンピオン」だ。藤崎マーケットではなく、アリスこそ映画宣伝に使うべきだったのではないか『ライラの冒険 黄金の羅針盤』。こっちのほうが連呼する回数は多い。そりゃサイモン&ガーファンクルを使えたらそっちのほうがいいかも知れないが、アリスだって負けてないはずだ。

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